先週発売された田原総一朗氏、井上達夫氏、伊勢崎賢治氏の
対談本『脱属国論』(毎日新聞出版)を読んだ。
日本の憲法論議が抱えている問題がかなり丁寧に網羅されていて、
お三方それぞれの語り口などキャラクターもよく伝わってきつつ、
井上氏と伊勢崎氏のリアリストとしての意見が、冴えわたっている
という一冊だった。
全5章に分かれている対談が、論点事にさらに細かく整理されていて
「もしも自衛隊が紛争地で戦闘に巻き込まれたら」
「憲法を破壊し続ける『護憲派』憲法学者」
「撃てない自衛隊を海外派遣する無責任」
など、ずらりと並ぶ見出しを眺めるだけで、
憲法改正について議論するなら、最低でもこれだけの論点が必要だ
とよくわかる。
自衛隊を、
「憲法9条に縛られて、がんじがらめで『使えない軍隊』」ではなく、
「交戦法規違反の行動を統制する国内法体系が整備されておらず、
いざとなると無法の武装集団になってしまう状態のため、
『危なくて使うに使えない軍隊』」
であると言い換えていたのは、すごくわかりやすかったし、
原発を持つある自治体の
「避難訓練をすると『原発は危険だ』と思われて反対運動が起きる
可能性があるから、避難訓練はしていない」
という話に例えて、
日本の憲法論議もまったく同じで、
戦争なんて起きるわけがない、
安全神話のなかに浸っていたいという「幻想」の中におり、
「想定外」を考えようとしない幼児性を指摘していたのも、
何事も後手後手にまわる隙だらけの日本人の甘さをズバリ、
しかも誰にでも理解できるように突きつけられたようだった。
特に、井上氏による完膚なきまでの「木村草太批判」が凄い。
憲法破壊がひどすぎて、井上氏はどんどん血圧があがるから、
これからは「怒りの法哲学者」をやめて、「悲しみの法哲学者」と
看板を掛けかえるそうだ。
伊勢崎氏による、9条の自衛権を、13条の生存権=「人権」と
結びつけることがすごくヤバいという意見も勉強になった。
国家が自衛権を行使することで起きる戦争と、単なる殺人事件が
ごちゃ混ぜになっている木村草太氏の感覚は、
人が殺されないように戦争したっていい、というすごく短絡的で
危険な考えに都合よく利用されてしまう可能性がある。
朝日新聞が重宝する憲法学者は、とんでもない超タカ派の思想と
結びついている。
田原氏は、
「安倍さんに会って話した」
「政治家に会って説得しようと思わないの?」
とたびたび二人に語り掛けていた。
天皇陛下のご譲位に際しては、山尾志桜里議員はじめ行動してくれた
政治家が実際に現れるきっかけができたわけで、政治家に会って説得
するのは無意味とまでは私は思わないけれど、
憲法や対米依存の問題については、まず国民が現状認識をして、
「こんなのおかしいじゃないか!」と怒らなければ始まらない、
盛り上がらないところがあるんじゃないかなと思う。
ゴー宣道場のように、草の根で議論する人々が広がっている場は
やっぱり貴重だ。
あとがきを読んで知ったけど、『脱属国論』は、昨年5月3日の
拡大版ゴー宣道場をまとめた『属国の9条』を読んだ田原氏から、
井上・伊勢崎両氏に、9条改正の必要性はよくわかったが、
日米安保、日米関係をどう変えようと考えているのかがわからないから、
その点をとくに議論したいということで話が振られたんだそうだ。
拡大版ゴー宣道場での発言も一部に引用されているから、
その場に参加していた者として、こうして議論が繋がっているんだと
思えて、そういった面からも面白く読めた。
10連休の読書の一冊にいかがでしょうか。